Coffee brake

ゆるりと気ままに呟きます。

マルチ・デイドリーム・ビリーバー②


脳内でひとり騒いでいると、隣に座っていた年下くんが口を開いた。

 

「あの、ダイアモンドDDとかってなんなんですかね」

 

彼が言っているのは、モニターのチーム名の隣に書いてあるものだ。リーダーらしき人物の下に文字が出ているため、てっきり会社か何かだと思っていたのだが。

それにしては、「~DD」とか「クラウン~」とか、「~アンバサダー」が多い。
アンバサダー、と見たところでネスカフェかホテルしか出てこないものの、何かこう、妙である。


「この写真の人はリーダーですか?」
「まぁ、そんな感じ」


お兄さんが答える。リーダーねぇ。
世の中、インスタやら何やらが流行ってはいるけど、リーダーと名のつく人は揃いも揃って、さも「プロのカメラマンから撮ってもらいました」と言わんばかりのキメキメショットがあるものなのだろうか。


「あのチームを率いてる◯◯さんなんてさ」
「ね、ほんとあの人にとっての50万なんて、うちらにとっての50円みたいな感じでしょ」

 

そんなにお金持ちなんですか?

 

「そう、すごいよ。部屋から等々力渓谷が見えるところに住んでるんだよね」
「そんな暮らししてみたいわほんと」
「とりあえず俺らは贅沢な旅行くらいで我慢しとこ」
「ねー、バリ行くのめっちゃ楽しみ~」

 

ほえーーーー…。


⑥やたら「お金持ち」の人に詳しい

 

いくら人脈が広くたって、そんなに特定の人物のことをみんながみんな知ってるなんてこと、おかしいやろ。

わたしは自然な流れでお手洗いにたち、自然な流れで個室でスマホをスワイプした。
ググったのは、先のおじさんの名前。

…!

売り上げトップの人じゃないですか!!!

ほえーーーーー等々力にあるのはドリームハウスっていうんだ、会社からプレゼントされたんだ!で、なんちゃらアンバサダーとかはそのランクの名前なんじゃん、なるほど…。


と、いうことは


⑦会社の、会社による、会社のためのスポーツ大会を、某国技館を使って開くことがどきる


とんでもねえ資金があるんだな。
ていうかいいのかよ国技館

一般開放してるとはいえ、今日って建前上どんな名前で出てるわけ?ネットに出てるスケジュール表を見ればたぶん…

 

【企業式典】

 

あーーーーでっすよねーーwwwwww


じゃあじゃあ、とそのスポーツ大会のサイトを開く。そこまでオープンに肩書きが出ているなら、きっとチームメンバーも出ているはず。

 

ビンゴ!メンバー表を見つけた。

 

さも「FW」や「DF」みたいな感じで、メンバーの名前のところにアルファベットがついているが、これもつまりはそういうことだ。職場のおばさん、そこそこのランクじゃねーか!!

ここまで綺麗にビンゴが続くとな。
他に会話からヒントはなかったか?


「とりあえず俺らは贅沢な旅行くらいで我慢しとこ」
「ねー、バリ行くのめっちゃ楽しみ~」


バリ。


あの口ぶりだと、どうもグループでバリに旅行にいくらしい。10日間も休める会社という時点でもう殴ってやりたいのだが、どうも「グループで休みを合わせて」行くらしい。なんだそれ。その時点であり得ないし、グループは若者ばかり。その金ってどこから出てくるんだ。


⑦年齢や仕事に見合わない生活をしている


【◯◯◯◯◯ バリ島】


検索。ビンゴ。


どうも、一定のランク以上のディストリビューターには、「会社が旅行資金を出してくれる」らしい。すっげーー!!

どうもこの手の人たちは、「充実した週末」「最高の仲間たち」「健康志向」「フォトジェニック!!」みたいなアピールがリアルでもSNSでもすごいイメージなのだが、そういうカラクリだったのね、と。まぁそこまでのランクに行くくらいなら?そこそこ儲けてるんでしょうけどね?


⑧ホームパーティが大好き


⑨健康オタク


⑩妙な結束力がある


思えばヨガやら何たら心理学やら、ホームパーティやらお料理会だのと言っては、いろんな人をおうちに招待していた気がする。無添加とかグルテンフリーとか、妙にこだわっていたような。そして妙にあの人たちは仲が良い。高校生女子ばりにグループを気にしている。それもそのはず、例のマルチはグループのメンバーの売り上げも、自分のランクに関わってくるのだそう。かけがえのない仲間に圧倒的感謝?

 

一つ解けると全部繋がる。これまでの会話は伏線だったのだ。真実はいつもひとつ!!!


と、トイレの個室でめくるめくひとりアハ体験を繰り広げたのち、観客席へと戻った。先の年下くんはへらへらバスケを見ている。

 

「やっぱスポーツって燃えますねー!!」

 

この子、この人たちのバスケサークルに入ろうかなーって言ってたよな。しかしさっきの「ダイアモンドDDって何」発言から察するに、何も知らずに迷い込んでいる状態なのだろう。わたしの記憶が正しければ、この子は中央大の法学部卒だったはずだ。おいおーい!いいのかそれで!!ネームバリューが落ちるぞ!!!


妙な興奮がさめやらぬまま、試合は終わり帰路についた。帰りの道中でもお兄さんたちは話が盛り上がる。

 

「あのドリンク、1日何本飲んでる?」
「俺、すごい時は3本いってた」

 

CMのような会話が広げられている。

 

「ところで、ハロウィン辺りは予定あいてる?大きいクラブを貸し切って、みんなでパーティーしようって言ってるんだけど」

 

はい出た貸し切り~~
はいキラキラライフ~~~~!!

 

と、思うわたしの横で、年下くんはやっぱり「そうなんすか、面白そう!」と食いついている!中央法よ~~~~!!

 

だいたい、そんなにしょっちゅう誘ってくるならそのグループLINEにわたしたちを追加すればいいでしょうに。どうしてそうしないのか。そこき追加できない理由があるんでしょう?知ってるよ、わたしは。

 

…なんていうことは笑顔で隠し通した。「わたしは何も知らないよ、ほらほら、いいカモがここにいますよ~~!!!」と言わんばかりの演技。あんたらだって騙してるんだからお互い様じゃんね!!

 

その後、お兄さんたちからの「この後飲みに行く?」という誘いを「今日はちょっと。ごめんなさーい!」と華麗にかわし、会はお開きに。家につくやいなや、年下くんに電話をかける。もしこの子が何も知らないのであれば、すぐに救ったほうがいい。

しかし通話ボタンをタップする前に一瞬止まった。話をどう切り出す?万が一、彼が「そちら側」の人間だったら?どう予防線を張る?


迷った末に、こう打った。

 

「今日はお疲れ様でした!あんまりスポーツ観戦ってしたことがなかったんですけど、たまにはこういうのもいいですね。楽しかったなー(*^_^*)

そういえば、出入り口で栄養補助食品とかもらえたじゃないですか。ああいうの、結構詳しいほうですか?」

 

送信。

 

これなら白でも黒でも、「最近生活リズムが乱れきってて栄養が云々~」とかなんとか言えば適当に乗り切れる。いける。

 

ブランドや栄養価の話をすれば黒、
それ以外の反応なら、白。

 

さぁ、どうくる?


「…?ちょっと電話してもいいですか?」


えーーー!!どっちとも取れる!!


電話に出ると、酔っている状態の年下くんと繋がった。どうやらあの後飲みにいって、お酒のせいで誰かの声が聞きたいところだったらしい。無駄にハラハラしたわ、やめてくれ。

どうも話を聞くに完全に白のようだったので、知り得る限りの情報を話した。潜入ミッションで知識を得たことも、そこからのめくるめくアハ体験のことも。するとさすがに酔いが冷めて来たらしい。ガチトーンで「都会って怖いんだな…」と呟いていた。


しかし、なのだ。この手の商売は純な人がしていることも多い。下位層には純粋に「お金を稼げたら家族のために使いたい」「いいものだから、人に教えてあげたい」という、キレイで真っ白な心を持った人がたくさんいる。

 

それはなぜか。

そういう人たちはもれなく「いいカモ」だからだ。

 

謳い文句は何も考えなければ実に魅力的だ。何も考えなければ。ビジネスをするサイドは講習だってあるだろうし、そこそこ口はたつ。人を疑うことを知らない優しい人は、信じてしまうのかもしれない。


というわけで、知識はつけておくに越したことはないです。わたしは彼らからのガチな勧誘が来るまで、敢えていいカモのふりをしてどう出るのか探ってみようと思いますが…笑

皆さんも、意外と身近なところにある話だと思うのでお気をつけくださーい!

デイ・マルチドリーム・ビリーバー①

事の発端は飲み友達から。

人見知りをしないことに関しては、他の追随を許さぬわたし。飲み屋だろうがなんだろうが、誰かしらと何かしらで仲良くなる。

その中で親しくなった男性から、「今度仲良い奴らと集まるから飲まない?」と言われたのがきっかけだった。

爽やか好青年、社交的。
イケメンではないけれど、人望はあるのだろうなという感じの人だった。

「へぇー、楽しそうですね!」
と返し、たまたま誘われた日が早く仕事が終わる日で、たまたま職場の近くの場所だったことから誘いに乗った。
閉鎖的な業界で働いてはいれど、元々人と話すのが好きなので、別の仕事をしている人たちと話すのはとても楽しい。

それからというもの、彼からは1〜2週に1度は何かのイベントに誘われるようになった。しかしその時のわたしは「本当にひと月丸々休みがない」という勢いで働いていたため、なかなか話に乗ることはなかった。

そして幾ばくか時は流れ、山が落ち着いた頃。

「スポーツ観戦とか、興味ない?」

いい加減、誘いを断りまくっていることに罪悪感が芽生え始めた頃である。スポーツかぁ。ちょうど、その種目をしている子どもから色々話を聞いているところだった。これを機にルールなんて覚えたら、ちょうどいいのではないか。

「いいですね!」

かくしてわたしは某休日に、その場所へ向かった。

当日。

所用があったためにやや遅れて、その駅についた。他のみんなはもう中に入っているらしい。
そういえば、チケットについて聞いてなかったな、当日券があるのだろうか。


①チケット売り場が開いていない


あれぇ、招待制?
まぁそういうのもあるのか、とスポーツに疎いわたしは勝手に納得した。連絡すると程なくして彼があらわれた。

「お待たせ!これが今日のチケットだから、半券に名前だけ書いてくれたらいいよ!」

はーい、と返事をして受け取る。
するとそのチケットに書いてあった言葉が


ディストリビューター


ディストリビューター
どこかで聞いたことがある単語だ…。
だけどなんだか思い出せない。

とりあえず「招待」の欄に記名をして入場する。中に入ると、聞きなれない名前のエナジードリンクと栄養補助食品を渡された。
しかしまぁバンドクラスタのわたしは、当日ワンドリンクなどには慣れっこである。へー、コインを渡さんでも貰えるのね、優しい。くらいにしか思わない。

とにもかくにも!試合である!
わたしたちは中に入った。

アリーナの中央に整備されたコート。
ピカピカのそこにエモみを感じる間も無く、目には「supported by」の文字が入ってきた。


②協賛がマルチである


おおお、かの有名企業じゃないか!!!
よく見てみれば、あたりの上りなどにもめちゃめちゃその会社の名前が書いてある。もちろん、さっきもらったドリンクと補助食品にまで。
…いや、でもあれか?協賛してるだけで、直接的に関係してるとはまだわからないじゃんな?

「俺とかが提携してる会社が協賛でね」

提携、ふーん…。
と、考えていたわたしは思い出した。

ディストリビューター」。

これ、前に法学徒の後輩と【マルチ商法の説明会】に潜入した時に聞いた単語だ!!確かこれは、商品を購入しつつビジネスをする層に与えられる呼び方ではなかったか。
ていうかこんな「これ、進研ゼミでやった!!」みたいな感じで思い出すわたしって、もしかして優秀なのでは??頭、結構キレるのでは???

とにもかくにも、だ。
さっきのチケットを思い出せ。


ディストリビューターの欄に知人の名前が書いてある


あーーー!さっきわたしカタカナとはいえ「招待」の欄に自分の名前を書いた気がする!!?うっひゃーー!!!けどまだカタカナだからどうにかなる!!?

頭がぐるぐるしているうちに試合が始まった。

男女混合チーム、ないし男性チームが多い中、ガールズチームが奮闘していることで場内は盛り上がっていた。「あそこ応援しようぜ」という空気になり、遠くのコートを見つめる。

…?

あれ、

あれは…


④手を出していると噂が立っている、先輩同僚が選手として出ている


もはや時がたつほど黒になっていく。
熱気が冷めてしまう。取り戻したい。
そう思った時にハーフタイムショーが始まった。登場したのは名もなきラッパー。まぁ、マイナーな大会だったら仕方ないよね、と思いながら、マイクパフォーマンスに耳を傾ける。


⑤アメリカンウェイ

\\アメリカンウェイ//

\\アメリカンウェイ//

創始者云々、精神云々、
誰にでも与えられるチャンス

3600円から始める

アンチに負けるな
ピンチはチャンス!

\\アメリカンウェイ//

\\アメリカンウェイ//


ウワァァァァァアァァァァァァ
なーーーーんじゃこれはwwwwww

と、話そうと思い隣のお兄さんを見た。
何も反応していない。
えっ、と思って辺りを見渡した。
誰も騒いでいない。騒がないのだ。

何それ!!
アメリカンウェイってやばない?
3600円とかもろじゃない!!?
え、みんな面白いと思わないの、
やばいと思わないの、ねえねえ!!!


脳内でひとり騒いでいると、隣に座っていた年下くんが口を開いた。

狩猟本能に目覚めてエステに行った話 ②


血統書付きのわんことのスプリングチャンスが訪れた野犬は、かくしてエステサロンを訪れることとなった(前記事「狩猟本能に目覚めてエステに行った話①」参照)。


仕事終わりにダッシュで来たので、メイクも落ちかけているが気にしない。


ウィーン


「いらっしゃいませ」

「あ、本日19時から予約の」

「お待ちしておりました(にこ)」


美人なお姉さんに促されるまま、問診票を書く。気になるところ、目的、様々の自分の「コンプレックス」と向き合うのはなかなかに恥ずかしくつらい。


問診票を提出してからは簡単なコース説明を受け、着替えをする。


「今回はボディのコースなので、下着も全部取っていただきます。ロッカーに紙ショーツとガウンがありますので、そちらを着用してくださいね」


紙ショーツ。

それすなわち紙のパンツである。
紙オムツより100倍心許ない代物だ。


衣服を脱ぎ、身につけてみた。「うわぁうっす」と思わず小声が漏れてしまうくらいにペラペラだった。それにガウンを羽織る。手術着の時ぶりのスースー感がある。不安だ。


そして誘導されるがままに、身長体重、代謝率、部位ごとの筋肉量や体脂肪の計測をする。さっきの「うわぁ」以上に「うわぁ」と思った。目の当たりにした数値で、心がしんだ。


そしてである。


「ではこちらの部屋で施術いたしますので、どうぞお入りください」


入った部屋で。


「では初めにですね、内容の相談の際に使いますのでお写真を撮らせていただいてもよろしいですか?」


お写真?


「ガウンを脱いで、後ろ向きにお願いします」


脱ぐ?


「あ、胸元はこちらのタオルで隠していただいて結構です、そのままお願いしますね、はーい」


はーい

はーい

はーい…


わたしは何をしているのだろう。
しかし後に引くことも何もできず、肌を晒した。

 

ぱしゃ。

 

「それではこちらは現像に少々かかりますので、後ほど一緒に見ましょうね」

 

い や だ !!!

 

そんな気持ちで台に横たわったのを覚えている。

 

「それで、先ほど計測した数値を見てみるとですね」

 

忘れないで、夢を。
こぼさないで、涙。

先ほど「いやだ」と思ったタイミングから、脳内BGMがアンパンマンマーチである。

あぁ。もう、どうにでもなれ。

そもそもエステを受けに来るのなんて、だらしない身体の人間しかいないのだ。だらしないから施術してもらうのだ。モデルでもない限り、客層なんて大差あるまい。

 

「上半身と下半身が、別人なくらい数値が違うんですよ」

 

曰く、上半身は引き締まっているのに、なぜか下半身ばかりに肉がついているとのこと。

 

「これは脚のコースで大正解ですね」

 

大正解と言わしめる、わたしの脚よ。

 

「それでは、始めさせていただきます」

 

そして冒頭の場面に繋がる。


まずは代謝を上げるために身体をあたためる。暖かい台の上に、ラップとタオルでくるまれて寝かされる。温熱調理、旨味を閉じ込める時にするようなあんな感じである。


(紙ショーツは身につけているものの)一糸まとわぬわたし。生まれたままの姿のわたし、23歳。今宵は体を伸ばした状態で、ラップに巻かれています。ほぼ全裸なのに、10人中10人を萎えさせる自信がある程度にはエロさもクソもない。


ラップで巻かれたわたしは、自力で動くことすらままならない。もしここで何か起こったら、逃げ出すこともできない。終わる。もし誰かに運んでもらえたとしても、ほぼ全裸である。スケスケのミイラ状態である。お母さん、娘は今ラップに包まれています…。

 

「それではいよいよセルライトを潰す作業に入るのですが」

 

お姉さんはローラーのようなものを持っている。

 

「ちょっと物理的に崩さないことはいかないので…痛いですが我慢してくださいね」

 

くくく、小さい頃から怪我の多かったわたしである。そんなちょっとくらいではな。

…ほらほら、ふくらはぎ。
全然痛くないじゃないか。
これくらいなら余裕である。
何が我慢してくださいなのかわからな

 

「では、上の方にいきまーす」

 

!?

 


!!!!!!!!????????、?、!!!!!??、!??!

 

 

うおぉ、と声が出た。

 


「どうですか?わかります?」

「わっかりまーーーーすぅぅぅぅぅゔゔ」

「これね、セルライトがあるところにしか反応しないんですよー」

「そうなんですねえぇぇえぇえ」

「ふふ。これ、さっきのふくらはぎと今の太ももと、同じ強さでしてるんですよ」

「うそぉぉぉぉぉお」

「しかもフルパワーの4分の1で、これです」

「へえええええぇぇぇえ」

「ね。痛いですよねぇ。特にこの辺でしょ、ほら、内もものここなんて」

「うおおおお、なっかなか、これは」

「ね、なくしていきましょうねー」

 

「あ、ちょっと上にずらしますねー」と、紙ショーツをなかなかの際どさのところまであげられ、尻もローラーをかけられる。

「あっ際どいっ」「いったぁぁぁぁぁぁぁい!!!」を交互に心の中で叫ぶ。叫ぶ。苦行だ。これは、苦行だ。万が一そのパンツの際どさ故に事故ったとしても、お姉さんはたぶん見慣れてるんだろうなまぁいいやそれどころじゃないからいたぁぁぁぁあい!!!!!!あっ、ちょっとそれだめだってそれ以上パンツ上げたら色々ダメでしょ痛い痛い痛いうわぁぁぁぁ!!!!!

 


「おつかれさまでしたー」


一仕事終えた。そう思った。


と、ここまでポカポカして代謝がよくなり、ある程度汗をかいていたので、一度シャワーで流すよう指示される。湯上がりで鏡に映ったその顔は疲れ切っていた。ここ、エステサロンなのにな。

 

「では今崩したセルライトのところを冷却していきますね」

 

とのこと。
そのままにしておくとまたセルライトが固まってしまうので、

 

「吸引しつつ冷やしていきますねー」

 

ということらしい。
きゅぽ、とハコ状のものを両尻に当てられる。そして機械のスイッチをお姉さんが入れる。

 

うぃぃぃぃいぃぃぃいぃぃぃぃん

 

尻を吸われている。


感覚としては、掃除機で吸われるアレである。

小学生の頃、掃除機かけを指示された弟の邪魔をしていたら、思い切り「強」モードで吸われたことがあったっけ。あの日の感覚が尻に蘇ってきた。懐かしい感覚。どうも、身体は記憶しているらしい。

 

注文の多い料理店さながら、散々身体をいじくりまわされ、今回の施術は終わった。服も着替え、ホッと一息ついていると、さきほどのお姉さんがやってきた。ふふ、もう許してやろう。今日はありがとうね、感謝してr

 

「さきほどのお写真が仕上がりました」

 

全わたしの心がしんだ。

 

わたしが思い描いていた「わたしの後ろ姿」はイデアでしかなかった。お姉さんの声が遠い。たるたる尻のすてら。ありそう。なんか、絵本とかにありそう。「たるたる尻のすてらは、今日もむしゃむしゃご飯を食べています。あぁ、おいしいおいしい、カロリーはおいしいなぁ」……。

 

野犬よ。あなたはこのたるみきった身体で、血統書つきのわんこに並べると思っているのですか?そんなもので、手に入れられるとおもっているのですかーー


---

--


エステのお姉さんの勧誘によって、というよりは半ば無意識のうちに、わたしはスッと「セルライト撲滅トライアルコース」に丸をつけていた。

 

 

というのが、ざっとしたエステ体験記である。

もちろん、体質改善の効果もある。しかし、「おまえはたるんでんだよオラァ!!」と己の現実を突きつけられる絶好の機会でもあるので、「カロリーなんて気にしたら負けだよウフフ」というような食べ飲み大好きお花畑さんは、ぜひ一度行ってメンタルを粉砕されてきてほしい。

狩猟本能に目覚めてエステに行った話①


まな板の鯉、と思った。

 

身につけているのは、ペラペラとした紙ショーツ1枚だけ。赤ちゃんのおくるみのように、全身をラップで巻かれている。

「こんばんは」と受付の方と挨拶を交わしてから、30分で裸になり、なされるがまま。初対面のお姉さんにさらけ出す、だらしない体。気休め程度にかけられている、胸元のタオルが平たくて虚しい。

どうなのだろう、これは。天井あたりの定点カメラで撮っていたらめちゃめちゃシュールなのではないだろうか。


このように初めてボディエステを受けるまでは、ちょっとした経緯があった。

 

 

 


「しかしさ、太ったよね」

わたしの周囲の人々は、オブラートに包むということを知らない。

確かに、確かにである。

前の人と別れてから暴飲暴食はしていたし、それで胃が大きくなったまま忘年会に臨み、新年会に臨み、若手男性陣の「メガ盛りを食す会」に参加し、それで……

「太りましたね」

認めざるを得なかった。

 

「でもほら、痩せようと思えばいくらでも、ほら?本気出せばいけますし」

「いやー、ね。恋でもしなきゃ無理よ」

最近彼氏ができた先輩が言う。

「そ、そんなことないです!!」

「あぁ、春が来るなぁ…」

「春が来ずとも!やってやりますよ!」

「おお、今すぐ綺麗になってみろ」

売り言葉に買い言葉だ。かくしてわたしは「美意識向上キャンペーン」を始めることとなった。

 

加えて、である。

 

同期のアラサーお姉さんの恋活に振り回されながら、それなりにそれっぽい人と食事には行くものの、ピンとくる人は特にいなくて、ということが続いていたある日のこと。波は突然やってきた。

 

良い男の出現である。

 

「狩らねば」

 

本能が言っている。

 

今までもそこそこいろんな人は見てきた。人よりその数は多いかもしれない。だけど全部ふんわりしていて、なんとなく「良いかなー」と思って、なんとなく始まったり始まらなかったりする程度のものだったのだけど

 

「狩らねば」

 

心の声ではなく、思考云々でもなく、なんというか、本能が言っている。なんだこれは。初めての感覚である。

 

しかし、どうにもブレーキがかかる。
明らかに釣り合わなさそうな物件なのだ。

 

有名大卒、海外の院に通うかたわら、外資系企業で働く塩顔高身長、会話の受け答えもパーフェクト。太鼓の達人で言えば「良」しかない感じ。漫画かよ。コンボだドン。もう1回遊べるのかドン…?だから諦めた方が…

 

「本能で、生きてる?」

 

先日友達からプレゼントされた、ブルゾンちえみの音声スタンプが語りかけてくる。


待て、落ち着け。


わたしは獣ではなくヒトなので、慌てて理性を呼び出した。

よく考えるんだ。彼が良いお家で飼われている、血統書付きのお高いわんこだとしたら、おまえなんてワクチンも打ったことのないような野犬だぞ。

狂犬病キャリアがお屋敷に上がり込もうとしたらどうなる?おまえには山が

 

 

~♪

 

 

ご飯の誘いがきた。

野犬は狼狽えた。

 

そしてこのタイミングで、1万円相当のボディエステが無料で受けられるという話が舞い込む。ほくそ笑むブルゾンちえみ。ふぁ、ファビュラス!!!!!!!!

 

野犬でも、キレイになれば釣り合うのだろうか……………?

 

かくして、謎の狩猟本能に目覚めたわたしはエステサロンへと足を運ぶのであった。幸せは、スプリングはカムするのだろうか。

 

 

つづく。

 

ダークマター・イズ・ヒア!


世の中にはハピネスも多いがダークマターも多い。乙女ゲー談義の話の前に面白いことがあったので少々。

社会人デビュー前のラスト帰省。もうしばらくは帰ってこないであろう自分の部屋。となると人は何をするか、探してしまうんです思い出のものを。鞄の中も机の中も探してみるとたくさんある。そしてこの現代社会、インターネットにもぽろぽろ落ちているんですよね。個人情報って。

そんな感じでスイッチが入ってしまったわたしはずんずん過去の品を漁り始めたのですが、独断と偏見で「こいつぁやばいぞ!」と思ったものたちをピックアップしてみました。

題して【触れてはならないダークマターランキング】!



【第5位】 卒アル、卒業文集

よっぽどやらかしている人以外はきっと大丈夫でしょう。寄せ書きに集合写真に「あ!こんな人もいたいた!」となる、どちらかといえばテンションが上がるものなのでこの程度です。ただ、もっさいのは否めません。



【第4位】 過去のFacebook記事

一応本名で投稿するツールなのだからそこまでひどくはないだろう、と思うかもしれませんが、案外やらかしてます。特に利用し始めの頃。Twitterなど他のSNSとの差異化ができていない頃。(これは誰しもその傾向が割とあるので、いたずらにひとのページを遡るのはやめましょう。)

ちなみにわたしは初めての彼氏ができて浮かれていたようで、「クリスマスを蔑ろにする人はさぞかし天皇誕生日を祝うんでしょうね!」なんて書いていました。陛下をバカにしてんのかおまえは。優越感浸ってんなよ、その彼とはクリスマスにとんでもない亀裂が入って三が日に別れることになるんだからな!!!



【第3位】 宛名のない手紙

かのBUMP OF CHICKENも、背が伸びるにつれて増えていった伝えたいことを筆に託して震えるほど重ねています。大人と子どもの狭間で悶々しがちな中高生の部屋でよく観測されるのではないでしょうか。しかも大抵は深夜のテンションでオーイェイェアハンしているせいで、朝になって読み返すと破らずにはいられないというシロモノです。

この「夜に生産→朝に処理」のサイクルのお陰で基本は残ることがないものなのですが、たまに「処理し忘れ」のものが机の奥または引き出しの奥から発掘されます。注意しましょう。



【第2位】 過去のブログ/交換日記

声を大にしては言えない、けれどどうにかして自分の気持ちをアピールしたい!そんな自意識と人間関係との狭間に揺れ、圧倒的ポエマーと化してしまった時代が、皆さんにはありませんでしたか?mixi、モバスペ、前略プロフなんかもこの類でしょう。自分は何かの気持ちを「ほのめかす」程度に書いていたつもりなんでしょうけど、今見てみると丸出しです。モロです。露出狂です。

ちなみにわたしは「着信音をディズニーの〈いつか王子様が〉にしてみた」などと書いていました。フゥ!風早くんなんていないぞ早く目を覚ませ!!
厄介なのは上記の手紙とは違い、「思い切り人に見せてしまっている」ということでしょう。若気の至りとはまさにこのこと。



【第1位】 過去の携帯/スマホのデータ

機種変するときには、古いものを持ち帰る人が大半だと思います。

着信履歴、メールbox、LINE…。あんな人やこんな人とのやりとりが蘇ります。わたしが今回実家で発見したのは2年ほど前のスマホだったのですが、今はなかなか縁遠くなってしまった人とのやりとりが上部にあったりして複雑な気持ちになりました。絵文字や顔文字に時代を感じます。
そしてやはり当時付き合っていた人がいる場合は当然その人とのやりとりも残っているわけです。フゥゥ!



いかがでしたか?「あ、やべ」と思ったそこのあなたはぜひ確認してみてください。

なんだかんだ言ったけど、懐かしい気持ちに浸ることができたことも確かです。後ろばかりを見て歩くのは危ないけれど、たまに振り返って通った景色を見るのも乙なもの。



このような品々一通りに目を通したことで、いらぬ思い出も多々掘り起こしてしまったような気はするけれど、今こそキレイに清算するときなんだな、と思いました。白い光の中に山並みは萌えて。遥かな空の果てまでも…



「今(いま)別れのーときーーー(ときー)」



混声三部のキレイなハーモニーが頭に響きます。ありがとう、そしてさよなら、思い出たち…。大変なことも忘れたいこともあったけど、それらを経て今のわたしがあるの。

感慨に耽りながら、メッセージ削除のボタンにわたしは手をかけました。グッバイマイデイズーーー。







【エラー】サーバーへ接続できません

LINEにアクセスできません。インターネット接続を確認してください。






なん…だと…?

鳥は跡を濁さないどころか飛び立ててもいなかった。


そうか、機種変するときにカードを抜いたりもうネットに繋げないようにしたからサーバーには接続できないんだ。ということは……




昔のスマホに残ったLINEデータは、基本残ったままなのだ。




東京戻ったら、ショップに引き取ってもらおう。

乙女ゲーをすすめられる


類は友を呼ぶという。
その言葉通り、わたしの周りにはどうも趣味に全力疾走している人種が多い。バンド、ジャニ系、アニメ、アイドル、鉄ヲタ……そのジャンルは実に多種多様。そんな中、とある友人からこんなことを言われた。


「乙女ゲーとかしてみないの?」


乙女ゲー…!
これまで縁遠かったジャンルである。


「ゲームといえばポケモンドラクエFF!冒険モノRPGに限るっしょ、友情努力勝利だぜ!!」ってな感じで育ってきたわたし。次のステージとかゴールとか、そういうのが見えていないとなかなか燃えない。どうぶつの森も、かなり前だとニンテンドッグスみたいなゲーム内ペットを飼うゲームもしてみたけれど、どうもしっくりこなかった。


「だって乙女ゲー魔王倒すとかないじゃん」

「魔王はまぁ倒さないけど…イケメンならいる」


イケメン。


「どのようなイケメンがいるのか」

「それはもう多種多様よ」


多種多様なイケメン。


「きゅんきゅんしたいときに最適!」

「きゅんきゅん…」


この言葉たちに5mm、いや3cmほど揺らいだわたしは、「まぁ確認ね、確認」とよくわからない理由付けをしながらplayストアを起動した。


「なんだたくさんあるんだな…」

「まぁねー、手始めに何が良いかなー」


なんだかもうすっかりプレイすることになっている。


「あ、これCMで見たことある!」

「あぁ、ダウトね!いいじゃん!それやって男見る目養いなよ!」


最後なんか余計なこと言われた?と思いつつも、まぁモノは試しか、経験せずに否定するのもあまりよくないと思いダウンロード。なんかステマ調になってきたけどそんなことは決してない。 


「絶対ねー、やるとはまるよー」

「そうかね、ゆうてもゲームの男でしょ?実際に会えるわけでもないしさ」

「それを甘くみちゃいけないんだなー!それなら世になぜこれほど二次元クラスタがいるのか」

「う…確かに」

「あ、でもねあんた初心者なんだから一応言っとくけど」

「なに?」

「課金は、するなよ?」



そんなそんな課金なんて~
そこまでずぶずぶはまるわけないじゃないの~☆

ちょっとだけなら大丈夫!
後戻りできるでしょ余裕だって!



そう思いわたしはゲームを起動した。


すてらとエゴグラムとわたし


ステラーダイカイギュウという生き物をご存じだろうか。
ジュゴンジュゴン科、もしビジュアルがぱっと浮かばない人はポケモンパウワウから進化するアレ、「オエーオ!」みたいな鳴き声でオーロラビームとかを発する、みず/こおりタイプの同名のアレをイメージしてもらっても構わない。


以下、逐一ステラーダイカイギュウだとちょっと長いので、敬愛を込めて「すてらちゃん」と呼ぶ。


すてらちゃんは1768年、もしくはそれ以降に絶滅してしまった。それはなぜか。

警戒心を持たず優しいから。余すとこなく人間様の利になるため、その性格も相まって乱獲されたからである。




夢とロマンを詰め込んで、人々は旅をした。しかし長い船の旅、今ほど整備も環境もよくないものであったから、乗組員たちは病に倒れることも少なくなかった。

「あぁ充分な食べ物が、栄養がとれたなら!」
そんなところに現れたのがすてらちゃんだった。

捕まえて食べてみると、肉は牛のよう、ミルクも旨い。さらには皮も加工に使えたりと、人間たちのメリットになるばかりの生き物だった。おまけに人間たちに警戒心はもたず近づいてくる。傷をつけたとしても、大人しくうずくまるばかり。一頭捕まえたれば、平気か大丈夫かと言わんばかりに仲間が集まる優しい気質。人間たちはそれを見逃さなかった。そこから始まる乱獲、その魔の手に気づかず仲間を思う一心で集まる彼ら…。

すてらちゃんは発見されてから間もなく、あれよあれよと言う間に滅んでしまったのだった。



お涙なしには聞けない話である。
わたしは天国に行ったらすてらちゃんを愛でる。
愛でて愛でて、一緒に海を泳ぐんだーーー。



それから時が流れたある日。わたしはなんとなくエゴグラムのサイトで遊んでいた。今や有名な性格診断である。

質問に答えて答えて、診断ボタンをクリック!
以下、結果の抜粋を載せておく。





「環境に振り回されるタイプです。

多情多感で、情が深い性格です。

優しすぎたりするために

気づかないうちに他人に利用されていて

現実に対する分析判断・適応能力も相まって

日常生活に深い打撃を与えることもあります。」





すてらじゃねえか。

わたし、すてらじゃねえかよ。


このままいくと滅ぶのかよ…。



確かに悪い人にひっかかったこともあったし、スペックの割に使い勝手がいいって前のバイト先で言われたことあるし、ネットショッピングで詐欺られたこともあるし、それに…



…。




すてらぁぁぁぁぁぁああ!!!!!




そんなわけで親近感を抱かずにはいられない動物、ステラーダイカイギュウを紹介させていただきました。わたしもこれから社会に出ますし、これまで以上に気をつけていこうと思いました。おわり。http://matome.naver.jp/m/odai/2140520936237155201