BBとしゃれこうべ
間違ったまま覚えている知識って実は意外と多い。
わたしは自他共に認める美意識の低い女なのだけど、ことにメイクに関する知識の乏しさは群を抜く。いつもしているメイクの所要時間は5分。時短ではない、フルメイクである。なぜそれほど時間が短いか、理由は簡単。そもそもメイク道具を知らないから、それほど持っていないのだ。
母が化粧っけのない人だったので、娘のわたしも関心を寄せることはなく。ファッション誌を立ち読んでも、メイクのページはわからないので飛ばし読み。何となくみんなの会話で小耳に挟んだ情報を元に買ったりつけたりしていた。
今日は何とはなしににつけていたテレビで、GENKINGが化粧品を紹介していたので、たまたまぼーっと眺めていた。
「BBクリームとCCクリームっていうのがあるんですけどぉ~」
知ってる。それは知ってるぞ!だってサークルでみんなが言ってたもんな!買って使ったことだってあるぞぉ!
「これは下地やファンデーションが一緒になっていて」
…?
わたしは気づいた。確かにクリームを使ったことはあった。でもその用途はよくわかっていなかった。BB、とつくのだからとわたしはBB弾を連想していた。BB弾といえば弾ける、メイクで弾くといえばUV。なるほど、UVカットのクリームか。
よく考えてみればこの世に日焼け止めというものは既に存在しているのだがそんな考えにも及ばず、低クオリティのマジカルバナナでの結論を疑うこともなく、わたしはBBを使っていた。
その結果、わたしは下地を塗って、BBを塗って、さらにファンデを塗っていたので、肌は意図せず二重膜構造と化していたらしい。ミトコンドリアかよ。
そんなわけで自分の知識のなさと変な調子の良さに絶望し、特集ののちすぐさまドラッグストアに駆け込み、メイクのメの字から学ぶこととなった。ありがとうGENKING。社会に出る前に恥をかかずに済んだよ。
勘違いと言えばである。
先ほどのBBの一件でもおわかりのように、わたしはどうも「語感でなんとなくモノをイメージしてしまう癖」があるらしい。
確か高校生のときだった。
テレビか何かで「しゃれこうべ」と聞こえてきたので、何とはなしに会話に出した。
「そういえばまだしゃれこうべって食べたことない。」
母はきょとんとしている。
「いや、だからしゃれこうべ食べたことないよねって」
「あんた…しゃれこうべって何だと思ってん…?」
え。
しゃれこうべって食べ物じゃないの。
何がどうなってそうなったのかはわからないが、わたしの脳内「しゃれこうべ」は神戸土産の焼き菓子だった。36個入りとかで、薄い白い紙に包まれた棒状の焼き菓子。カロリーメイトが少しふっくらした感じ。パッケージには「銘菓 しゃれこうべ」と草書体で書かれている。食べたことはないけど、きっとバター風味の甘くて美味しいやつである。
そんな謎の確固たる「しゃれこうべ」像を話したところ、母はたちまち吹き出してすぐさま父を呼んだ。わたしはきょとんである。あまりにイメージが定まりすぎていたので、「そのしゃれこうべはしゃれこうべじゃない」と言われたところでイメージができなかった。
だって考えてみろ、今まで「クッキー」だと思っていたものを突然、「それは違います。本当のクッキーはこちらです。」と髑髏に置き換えられてみろ。パニックである。じゃああの脳内イメージ画像はどこからやってきたものだったのか。
あまりの衝撃で放心状態のわたしは家族に爆笑されながらも事実を受け入れられなかった。「そんなはずはない!絶対銘菓はある!」根拠のない自信のもと、翌朝学校で会う友人会う友人に真顔で尋ね回ったものの、幻の銘菓しゃれこうべの情報はついぞ出てこなかった。ググってもみたけど出てこなかった。
「ようやく無知を自覚してきたか」
心のソクラテスがそう呟いた。
しかし、自分が信じてやまない概念が突然崩壊すると人はパニックになる。天動説・地動説の争いのときなんて、人々はさぞかし戸惑ったんだろうなぁ。わかるわかる。平成の日本でわたしはしみじみ思うのだった。