Coffee brake

ゆるりと気ままに呟きます。

狩猟本能に目覚めてエステに行った話①


まな板の鯉、と思った。

 

身につけているのは、ペラペラとした紙ショーツ1枚だけ。赤ちゃんのおくるみのように、全身をラップで巻かれている。

「こんばんは」と受付の方と挨拶を交わしてから、30分で裸になり、なされるがまま。初対面のお姉さんにさらけ出す、だらしない体。気休め程度にかけられている、胸元のタオルが平たくて虚しい。

どうなのだろう、これは。天井あたりの定点カメラで撮っていたらめちゃめちゃシュールなのではないだろうか。


このように初めてボディエステを受けるまでは、ちょっとした経緯があった。

 

 

 


「しかしさ、太ったよね」

わたしの周囲の人々は、オブラートに包むということを知らない。

確かに、確かにである。

前の人と別れてから暴飲暴食はしていたし、それで胃が大きくなったまま忘年会に臨み、新年会に臨み、若手男性陣の「メガ盛りを食す会」に参加し、それで……

「太りましたね」

認めざるを得なかった。

 

「でもほら、痩せようと思えばいくらでも、ほら?本気出せばいけますし」

「いやー、ね。恋でもしなきゃ無理よ」

最近彼氏ができた先輩が言う。

「そ、そんなことないです!!」

「あぁ、春が来るなぁ…」

「春が来ずとも!やってやりますよ!」

「おお、今すぐ綺麗になってみろ」

売り言葉に買い言葉だ。かくしてわたしは「美意識向上キャンペーン」を始めることとなった。

 

加えて、である。

 

同期のアラサーお姉さんの恋活に振り回されながら、それなりにそれっぽい人と食事には行くものの、ピンとくる人は特にいなくて、ということが続いていたある日のこと。波は突然やってきた。

 

良い男の出現である。

 

「狩らねば」

 

本能が言っている。

 

今までもそこそこいろんな人は見てきた。人よりその数は多いかもしれない。だけど全部ふんわりしていて、なんとなく「良いかなー」と思って、なんとなく始まったり始まらなかったりする程度のものだったのだけど

 

「狩らねば」

 

心の声ではなく、思考云々でもなく、なんというか、本能が言っている。なんだこれは。初めての感覚である。

 

しかし、どうにもブレーキがかかる。
明らかに釣り合わなさそうな物件なのだ。

 

有名大卒、海外の院に通うかたわら、外資系企業で働く塩顔高身長、会話の受け答えもパーフェクト。太鼓の達人で言えば「良」しかない感じ。漫画かよ。コンボだドン。もう1回遊べるのかドン…?だから諦めた方が…

 

「本能で、生きてる?」

 

先日友達からプレゼントされた、ブルゾンちえみの音声スタンプが語りかけてくる。


待て、落ち着け。


わたしは獣ではなくヒトなので、慌てて理性を呼び出した。

よく考えるんだ。彼が良いお家で飼われている、血統書付きのお高いわんこだとしたら、おまえなんてワクチンも打ったことのないような野犬だぞ。

狂犬病キャリアがお屋敷に上がり込もうとしたらどうなる?おまえには山が

 

 

~♪

 

 

ご飯の誘いがきた。

野犬は狼狽えた。

 

そしてこのタイミングで、1万円相当のボディエステが無料で受けられるという話が舞い込む。ほくそ笑むブルゾンちえみ。ふぁ、ファビュラス!!!!!!!!

 

野犬でも、キレイになれば釣り合うのだろうか……………?

 

かくして、謎の狩猟本能に目覚めたわたしはエステサロンへと足を運ぶのであった。幸せは、スプリングはカムするのだろうか。

 

 

つづく。