Coffee brake

ゆるりと気ままに呟きます。

狩猟本能に目覚めてエステに行った話 ②


血統書付きのわんことのスプリングチャンスが訪れた野犬は、かくしてエステサロンを訪れることとなった(前記事「狩猟本能に目覚めてエステに行った話①」参照)。


仕事終わりにダッシュで来たので、メイクも落ちかけているが気にしない。


ウィーン


「いらっしゃいませ」

「あ、本日19時から予約の」

「お待ちしておりました(にこ)」


美人なお姉さんに促されるまま、問診票を書く。気になるところ、目的、様々の自分の「コンプレックス」と向き合うのはなかなかに恥ずかしくつらい。


問診票を提出してからは簡単なコース説明を受け、着替えをする。


「今回はボディのコースなので、下着も全部取っていただきます。ロッカーに紙ショーツとガウンがありますので、そちらを着用してくださいね」


紙ショーツ。

それすなわち紙のパンツである。
紙オムツより100倍心許ない代物だ。


衣服を脱ぎ、身につけてみた。「うわぁうっす」と思わず小声が漏れてしまうくらいにペラペラだった。それにガウンを羽織る。手術着の時ぶりのスースー感がある。不安だ。


そして誘導されるがままに、身長体重、代謝率、部位ごとの筋肉量や体脂肪の計測をする。さっきの「うわぁ」以上に「うわぁ」と思った。目の当たりにした数値で、心がしんだ。


そしてである。


「ではこちらの部屋で施術いたしますので、どうぞお入りください」


入った部屋で。


「では初めにですね、内容の相談の際に使いますのでお写真を撮らせていただいてもよろしいですか?」


お写真?


「ガウンを脱いで、後ろ向きにお願いします」


脱ぐ?


「あ、胸元はこちらのタオルで隠していただいて結構です、そのままお願いしますね、はーい」


はーい

はーい

はーい…


わたしは何をしているのだろう。
しかし後に引くことも何もできず、肌を晒した。

 

ぱしゃ。

 

「それではこちらは現像に少々かかりますので、後ほど一緒に見ましょうね」

 

い や だ !!!

 

そんな気持ちで台に横たわったのを覚えている。

 

「それで、先ほど計測した数値を見てみるとですね」

 

忘れないで、夢を。
こぼさないで、涙。

先ほど「いやだ」と思ったタイミングから、脳内BGMがアンパンマンマーチである。

あぁ。もう、どうにでもなれ。

そもそもエステを受けに来るのなんて、だらしない身体の人間しかいないのだ。だらしないから施術してもらうのだ。モデルでもない限り、客層なんて大差あるまい。

 

「上半身と下半身が、別人なくらい数値が違うんですよ」

 

曰く、上半身は引き締まっているのに、なぜか下半身ばかりに肉がついているとのこと。

 

「これは脚のコースで大正解ですね」

 

大正解と言わしめる、わたしの脚よ。

 

「それでは、始めさせていただきます」

 

そして冒頭の場面に繋がる。


まずは代謝を上げるために身体をあたためる。暖かい台の上に、ラップとタオルでくるまれて寝かされる。温熱調理、旨味を閉じ込める時にするようなあんな感じである。


(紙ショーツは身につけているものの)一糸まとわぬわたし。生まれたままの姿のわたし、23歳。今宵は体を伸ばした状態で、ラップに巻かれています。ほぼ全裸なのに、10人中10人を萎えさせる自信がある程度にはエロさもクソもない。


ラップで巻かれたわたしは、自力で動くことすらままならない。もしここで何か起こったら、逃げ出すこともできない。終わる。もし誰かに運んでもらえたとしても、ほぼ全裸である。スケスケのミイラ状態である。お母さん、娘は今ラップに包まれています…。

 

「それではいよいよセルライトを潰す作業に入るのですが」

 

お姉さんはローラーのようなものを持っている。

 

「ちょっと物理的に崩さないことはいかないので…痛いですが我慢してくださいね」

 

くくく、小さい頃から怪我の多かったわたしである。そんなちょっとくらいではな。

…ほらほら、ふくらはぎ。
全然痛くないじゃないか。
これくらいなら余裕である。
何が我慢してくださいなのかわからな

 

「では、上の方にいきまーす」

 

!?

 


!!!!!!!!????????、?、!!!!!??、!??!

 

 

うおぉ、と声が出た。

 


「どうですか?わかります?」

「わっかりまーーーーすぅぅぅぅぅゔゔ」

「これね、セルライトがあるところにしか反応しないんですよー」

「そうなんですねえぇぇえぇえ」

「ふふ。これ、さっきのふくらはぎと今の太ももと、同じ強さでしてるんですよ」

「うそぉぉぉぉぉお」

「しかもフルパワーの4分の1で、これです」

「へえええええぇぇぇえ」

「ね。痛いですよねぇ。特にこの辺でしょ、ほら、内もものここなんて」

「うおおおお、なっかなか、これは」

「ね、なくしていきましょうねー」

 

「あ、ちょっと上にずらしますねー」と、紙ショーツをなかなかの際どさのところまであげられ、尻もローラーをかけられる。

「あっ際どいっ」「いったぁぁぁぁぁぁぁい!!!」を交互に心の中で叫ぶ。叫ぶ。苦行だ。これは、苦行だ。万が一そのパンツの際どさ故に事故ったとしても、お姉さんはたぶん見慣れてるんだろうなまぁいいやそれどころじゃないからいたぁぁぁぁあい!!!!!!あっ、ちょっとそれだめだってそれ以上パンツ上げたら色々ダメでしょ痛い痛い痛いうわぁぁぁぁ!!!!!

 


「おつかれさまでしたー」


一仕事終えた。そう思った。


と、ここまでポカポカして代謝がよくなり、ある程度汗をかいていたので、一度シャワーで流すよう指示される。湯上がりで鏡に映ったその顔は疲れ切っていた。ここ、エステサロンなのにな。

 

「では今崩したセルライトのところを冷却していきますね」

 

とのこと。
そのままにしておくとまたセルライトが固まってしまうので、

 

「吸引しつつ冷やしていきますねー」

 

ということらしい。
きゅぽ、とハコ状のものを両尻に当てられる。そして機械のスイッチをお姉さんが入れる。

 

うぃぃぃぃいぃぃぃいぃぃぃぃん

 

尻を吸われている。


感覚としては、掃除機で吸われるアレである。

小学生の頃、掃除機かけを指示された弟の邪魔をしていたら、思い切り「強」モードで吸われたことがあったっけ。あの日の感覚が尻に蘇ってきた。懐かしい感覚。どうも、身体は記憶しているらしい。

 

注文の多い料理店さながら、散々身体をいじくりまわされ、今回の施術は終わった。服も着替え、ホッと一息ついていると、さきほどのお姉さんがやってきた。ふふ、もう許してやろう。今日はありがとうね、感謝してr

 

「さきほどのお写真が仕上がりました」

 

全わたしの心がしんだ。

 

わたしが思い描いていた「わたしの後ろ姿」はイデアでしかなかった。お姉さんの声が遠い。たるたる尻のすてら。ありそう。なんか、絵本とかにありそう。「たるたる尻のすてらは、今日もむしゃむしゃご飯を食べています。あぁ、おいしいおいしい、カロリーはおいしいなぁ」……。

 

野犬よ。あなたはこのたるみきった身体で、血統書つきのわんこに並べると思っているのですか?そんなもので、手に入れられるとおもっているのですかーー


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エステのお姉さんの勧誘によって、というよりは半ば無意識のうちに、わたしはスッと「セルライト撲滅トライアルコース」に丸をつけていた。

 

 

というのが、ざっとしたエステ体験記である。

もちろん、体質改善の効果もある。しかし、「おまえはたるんでんだよオラァ!!」と己の現実を突きつけられる絶好の機会でもあるので、「カロリーなんて気にしたら負けだよウフフ」というような食べ飲み大好きお花畑さんは、ぜひ一度行ってメンタルを粉砕されてきてほしい。