Coffee brake

ゆるりと気ままに呟きます。

切実な地方のテーゼ

大学の実習は、一般的に地元で行う。
わたしも教職課程を履修しているので、教育実習は母校で行った。それはそれはハードだけど楽しくて、行ってよかったと本当に思えた。だから、「博物館実習もきっと楽しいよ!」と友人に言った。この友人はジャニーズが大好きな子なので以下Jと記そう。


実習を終え、精神の安寧を求めジャニショへ行くため東京に来ていたJとご飯を食べた。そういえば実習どうだった、と聞くと


「いやーもうね、闇よ、闇。」
うつろな瞳で彼女は答えた。

「いや、なんかもう明日すらも見えない。」


とりあえず一言でまとめると受け入れ先の美術館が存続も危ぶまれるレベルでやばかった、という話だった。市営ではないためお金がもらえない、設備が整っていない。学芸員さんが悲痛な叫びをあげている。授業で習った「本当にやばい美術館」のテンプレだったのだという。


まず、空調がない。
豪雪地帯にも関わらず、だ。

冬場なんて外気と室温の差でびしょびしょになるような地域なのに?それ保存状況とか大丈夫なの?と聞くと、「いやまじでここまで無事で来れてるのが奇跡だと思う」とのこと。空調管理の設備をしたくともお金がなくてできないらしい。

次に、データベースがない。
電子情報での管理ができていない。つまりどういうことか。紙媒体で管理されているのだ。


「信じられる?」


「この現代でよ」


「帳簿だよ?」


帳簿。日常会話で帳簿。
箸でつまんでいた塩キャベツがポロリと落ちた。何時代だよ。いまどき学校でも授業にスマホ導入とか言われてるのに。

図鑑クラスにでっかい帳簿がどーんとおかれているらしい。でもそこからお目当ての資料を見つけたりということが難しく、結果として管理の品ともなっていないとのこと。帳簿意味ないじゃん……。

管理ができていない、だからモノがどこにあるのかもよくわからない。大切なモノもその辺にあったりするらしい。「あ、そこにあるの国指定のだから(気を付けてね)」みたいな感じである。整理しようにも人がいない。雇うお金がない。


こんな状況に絶望してか、くる学芸員も1年そこらで逃げていく。結果メインで入っているのは二人、だから仕事の途切れ目がない、休めない。市はお金をくれない。

「市営のにはお金が行くんだけどね……。」
学芸員のお兄さんは悲しい目で言っていたらしい。こんな必死こいて働いたところでお金がない施設。大した仕事をせずともお金がくる施設。となると市役所、と思うのだが、訴えてもお金が下りてきたりはしないそうだ。こうして行政との確執が生まれてくるのだろうか。ちなみにそんな話をお兄さんから聞かされているJの両親は公務員、直接的にその仕事と関係はなくとも、「そっちサイドの人間」であるわけで気まずさはマックスである。


「で、最後にこの美術館はどうしていけばいいか、みたいな作文書かされてさ。なんかもうさ、もう本当にどうしようもないよね、うちらには。」

ぺしっとおしぼりで力なくテーブルを叩く。無力感。ちなみにそこの美術館は、もう今後実習生を受け入れる余力もなさげらしい。滅びゆく運命なのだろうか。この現実を叩きつけられ、Jは帰ってきたのであった。


地方創生、なんて聞くけど。難しい。

あー、まじ地方って。あー、ほんとなんかもうヤンキーになりたかった。その日の結論もそうなったのだった。