Coffee brake

ゆるりと気ままに呟きます。

大学デビューをしくじった話

「インカレ」とは何かもよくわからないまま、田舎娘のわたしはテニスサークルに入った。押し寄せる新歓イベントの嵐、その中でもとりわけ大きいものは【新歓合宿】であろう。

聞けば合宿では山中湖の辺りに行くとのこと。上京して早々、みんなでお泊りだ。修学旅行みたい!


山中湖。山の中の湖。
行ったことはないけど、名前からしてさぞかし自然に満ち溢れた空間なのだろう。

そこで合宿をするとな?何をするんだろう、オリエンテーリング?山登り?よくわかんないけどアクティブそうだなだって山だし!と、うっきうきで準備をする18のわたし。
田舎者なめんなよ!ちっちゃいときは家の近くの林でキジを追いかけるのが日課だったんだからな。アクティビティなら得意さ!……と、わたしは謎の自信に満ち溢れ、都会人をぎゃふんと言わせようと企んでいた。


お気づきだろうがこの時点ですでに「山中湖」の字面に支配され、テニスのことなどはとうに頭から消えている。おまえテニサーだろうが。


当日早朝、ガラガラとキャリーバッグを引っ張り、慣れない新宿の地下を通り集合場所へと向かった。はぁぁ、みんなとちゃんと喋れるかな、何を話そうかな、やっぱあだ名とかからかな!?色んなわくわくが絡みあって既にハイ状態だ。

指定された場所的に、うちのサークルはこの集団だろうか。まだ先輩の顔なんて全然よくわからないけど、大学生らしい男女がたむろしている。いや、でも違うかもしれない。ふわふわの巻き髪、高いヒール、ワンピース、レースのスカート。だってこれからわたしが向かうのは山なのだから。でも念のために聞いてみよう。


「すみません、○○(サークル名)の方ですか?」

「あ、うんそうだよー!新入生?てかめっちゃカジュアルな格好だね!超運動できそう!(笑)」


あれ。


あれぇ?


カジュアル?

いやだってこれから行くのは運動するも何も……


「え!山に登るからって……」

「いやいやいや山中湖でしょ!あ、そっか山だと思ってその格好!?テニスよテニス!!!(笑)」


あ。わたしテニサーか。

ここでようやく気付いたわたし。
テニスしないならこの前買ったラケットは何に使うのか。何のためにウェアなどの着替えを持っているのか。本当に過去に遡ってドロップキックをかましてやりたい。

ゆるふわキラキラの女子たちの中に、わたしはシャツにジーンズ、カーキのジャケットにスニーカーとかいう格好で呆然としていた。なんだよ、じゃあ山中湖なんて名前つけんなよ……。


入り口を間違えたのだから当然その後も間違える。テニスをしたのち、夜のコンパでは上級生たちとはしゃぎすぎた。その結果翌朝、ほかの1年女子たちが「ねー!!まじ昨日の夜みんなと仲良くなれてよかったぁ♡ほーんとこのサークルでよかった!!」などときゃいきゃいしている。

あれぇ、みんなあだ名で呼び合ってる、あれぇ……。あぁ、終わった。新歓合宿とかいう初めての大イベントにして終焉を迎えた。

さすがにこの年までくると女社会というものの構造は疎いながらも見えてきている。はじまりを間違えてしまうとグループというものはとても入りづらいことを知っている。ああ、グッバイマイライフ。どこにもキジ捕獲で鍛えた足腰を見せる場なんてありやしない。


そんなふうに絶望の淵にいたのを覚えている。かくして大学デビューを盛大にしくじったわけなのでそこからはもう上がるしかない。きらきらの女の子たちに囲まれてしばらくキャラクター模索期が入ったのは言うまでもないが、4年の今まで楽しくやっているのだしなんとかうまい具合に来れたのだと思う。人生なんとかなるもんだ。

しかしまぁそれほど純粋培養された生き物であったため、振り返ってみるとそれなりに悪い男に振り回されたりもした。共学だったけど「オレ オマエ トモダチ」みたいな感じだったし。恋愛といえば少女マンガのようなロマンチックな世界で、大人の欲望と欺瞞に満ちた闇の部分なんても知らなかった。「君に届け」を読んで赤面していたことが懐かしい。

返事はすぐにしちゃだめだって誰かに聞いたことあってもすぐに返事をする。駆け引きなんてできないのは無垢と書いてバカだからだ。YUIも頭を抱えよう。



ひとまず言えることは、何事も無知なのは怖いということだ。古のギリシアから訴えていたソクラテスは本当に偉大だと思う。まじリスペクトである。