どうしてわたしがインカレに
「どうもこんばんは」と寿司屋に入り、「ドリンクはいつものでしょ?」と冷酒を出され、「あとおいしそうなの5カンくらいください」と小慣れた感じでカウンターに座る。いくらその店が以前バイトをしていたところだとはいえ、こんな女子大生になっていようとは誰が想像しただろうか。断言しよう、わたしはゆるふわキラキラ女子大生ではない。でもこう見えて実はテニサーなのだ。
テニサー、俗にいうテニスサークル。
一般的にうぇいうぇい系のイメージをはらむ。どうしてテニサーに入ったのかを思い返してみよう。
*
わたしは大学進学にあたり上京した。
都会の一人暮らしは初めてづくしだ。恋愛経験ほぼなし純田舎育ち。絵に描いたような無垢な女の子だった。だった、と言わなくてはいけないのが悲しい。東京はおっかないところだったよお母さん。わたしは色んな事を知ってしまった。
入学式の日、大学前には「勧誘ロード」がある。上級生が色んなサークルのビラを持って待ち構えている。まずはその人の多さに、ではなく
「こんなにみんながわたしの入学を祝ってくれている!」
と、感動したのを覚えている。涙が出るほど純情である。
そんな感じなのでビラを受け取らない・断るなんて発想はあるはずもなく、完全に良いカモと化したわたしは配られるすべてのビラを受け取り受け取り、入り口に着くころには図鑑程度の厚さの束を手にしていた。
「都会ってすげえ。」
そう思った。上京あるあるだが何かに驚いた際、とりあえずこの一言で片付けられるという魔法の言葉だ。
コミュ力は割とある方なので、学籍番号が近い子達と仲良くなり、話題はサークルへと移った。そうか、大学生はサークルに入るのか。なんか聞いたことはあるぞ!
「やっぱ、インカレにする?」
その子は言った。
インカレとはインターカレッジの略である。女子大は周辺の大学と合同でサークルを組む場合が多い。だからプライベートでは実質共学と変わらない状態になることも少なくない。出会い、青春、キラキラ。オレンジデイズ的なイメージが詰め込まれた宝庫だ。そんな世界があることをわたしはそもそも知らなかった。
「あー、うん、いんかれかなやっぱ」
完全に知ったかぶった。
3秒前に初めて聞いた「いんかれ」をはいはいわかるわかる的な雰囲気を醸しつつ会話に挿入した。田舎者だと思われたくなかったちっぽけなプライドで。
そんなわけで完全に周囲の流れに乗って、「いんかれ」の説明会やご飯会へと参加してみることになったのだ。この時もわたしは「ただでご飯が食べられるらしい」という部分しか聞いていなかった。大学生活を左右するサークルなのにそんなんでよかったのだろうか。色々参加はしてみたものの、やっぱり上級生がしてくれる話もそこまで聞いていなかった。ご飯を食べていた。
体力はあれどそんなにスポーツをする気もなく、それなのにどうしてテニサーを選んだのか。一言でいえば勧誘を断りきれなかったからである。
うちのサークルでは説明会をしたのち、新入生に上級生が電話をかけて勧誘をする。そのときはひとつ上の先輩がわたしに電話をかけてきてくれたのだが、彼はひどい風邪をひいていた。
「(ゴォッホゴッホゴホ)……う、うちのサークルに(ゴホッゴホッ)入ったり(げほっ)してくれないかなぁ…?(ゲフンッ)」
そんなすぐになんてさすがに決められない!と思ったのだが、なんせ彼の咳がひどい。こちらがうーんと悩んでいると、沈黙が気まずいのか頑張って話してくれるため、さらに喉へダメージを与えているようだ。早く返事をしなければ彼が倒れてしまうのではないか。
「え、あっ、あの!入ります、入りますから!先輩はお大事にしてください!!」
入部が決まった。そんなんでいいのか。
しかし本番はここからだ。そんなわたしを待ち受けていたのは新歓合宿である。