ある女の子の話
クリスマスや忘年会に新年会、大学生活最後の思い出作りとかこつけて、いろんなお誘いをしてもらえるのは嬉しい。世代や性別問わず友達がいる方なので、よく「お前の交友関係がわからない」と言われる。
仲の良い人をざっと思い浮かべてみると、個性が強い面々が並ぶ。仲良くなる人はほとんど、自分と似ている性格か真逆に近いかのパターンに当てはまるような気がする。個性派が多いだけに、わたしも周囲にどれだけ変わり者と思われているのか心配になる。
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帰省するときにいつも連絡をとる女の子がいる。
仲が良かったので、クラスが分かれてからもたまに学校で見かけると声をかけた。居場所がないと語る彼女に、「じゃあうちの部室に来ればいいじゃん」と、半ば部室の主と化していたわたしは軽い気持ちで提案した。この一言のお陰で救われた、と聞いたのはつい最近のこと。言われるまで忘れていたような出来事だったのだけど。
そんな彼女も大学に進学し、わたしはほっとしていた。しかし大学へ行ってさほど経たないうちに辞めてしまったということを聞く。進学して一人暮らしをすると環境が激変してしまうし、それがストレスだったのかなぁなんて考えていたのだけど、話はもっとシビアなものだった。
人見知りな彼女は、「この人なら信頼できる」と思えた数少ない友人に自分のことを打ち明けた。するとその人から、「そんなのは甘えでしょ?」と一蹴され、厳しい言葉を投げられてしまったらしい。
やっと勇気を出してカミングアウトできたのに、一気に絶望の淵に叩き落された。そのショックは大きく、そこからどんどん人と接するのが怖くなってしまったそうな。
アスペルガー症候群は、高機能自閉症とまとめて自閉症スペクトラムと呼ばれる。空気を読むのが苦手、特異なこだわりを見せるなどの特徴はあるけど、決して甘えなどではない。人からの無理解で対人恐怖やうつ病などの二次障害を併発してしまうこともあるのだが、もちろんこれも甘えなどではない。
わたしもどんな言葉をかけていいかわからなくて、「まず地元に帰ってきたならゆっくり休めばいいじゃん」、「落ち着いたら次を考えればいいよ、またご飯行こうね」などしか言えなかった。
それから心のどこかでずっと彼女のことが引っかかっていて、でも何をしてあげられるのかわからない日が続いた。するとしばらくして、彼女から「仕事を始めたんだ」という知らせが届いた。
久しぶりに会った彼女はさっぱりした顔をしていた。好きな写真を仕事にできたらしい。怒られて泣くこともあるけどめげずに頑張っているのだそう。
いいな、好きを仕事にできるって素敵だよね。わたしなんて遊んで飲んだくれるクズ大学生よ、都会に染まったなんてみんなに言われるもん、なんて自虐っぽく言ったら、「そんなことないよ」と返された。
「確かに変わったところはあるかもしれないけど、芯みたいなところは変わってないと思う。前よりも自分の言葉に自信をもって話せるようになってて、すごくいいなぁって思うよ」
…なんて言われた。いつも自信なさげに俯いていた彼女に。そんなことを言うようになるなんて思わなかったし、たまらなく嬉しかった。彼女には人より脆い部分があるけど、たくさんの出来事を経て、ゆっくり確実に強くなっていた。その後はなんだか照れてしまって、やっぱり大したことは言えなかった。
ベッドに寝転がりながら、そんなことを思い出した。わたしも仕事に就いたら、彼女と仕事の愚痴を言い合ったりする日が来るのだろうか。先のことなんて、まだよくわからないけど。