Coffee brake

ゆるりと気ままに呟きます。

コーヒーブレイク

大学での用事が終わった。
なんだかすぐ帰るには惜しくて、でもこれといった行くあても特にはなくて。そういう日にいつもぷらっと入るコーヒースタンドがある。

駅からちょっと歩いた閑静な住宅街の中にこじんまりとした店構え。オーナーのお兄さんひとりの小さなお店なのだけど、何かしっくりくるというか収まりがいいというか。有名チェーンに行くのもいいけど、たまにはこういうところに来るとほっとする。


今日のお兄さんの髪はワックス多めらしい。
物腰の柔らか~い感じなので、たぶんわたしとは性格も正反対なんじゃなかろうかと思う。

豆を挽く音、食器の音。二階で流しているらしいピアノサウンドが微かに聞こえる。心地良い。

ふむ。

人と話すのが好きなので、カウンター近くでこうしてひとりカフェをしていると、頃合いを見て店員さんに話しかけたくなる。お兄さんはうつむき加減でゆったりと作業をしている。いけるか、いけそうか。話すか。何を?えっと……。



「お兄さんって学生時代共学ですか?」


「えっ(笑)」



「男子校ぽいですか?」と笑われた。ほー、笑うときは意外とおっきく笑うんだ。小説の一節ならフラグの文章だが、実際問題、なんてことはない。いきなりの話題でアレだったかもしれませんけど、さっき友達とそんな話題で話してたんで。就活の合間に大学に行ってたんです、なんてところから入る
たわいもない話。


「あぁ、就活生さんなんですね。僕は就活とかしてないので、大したことは言えませんけどね(笑)」


お兄さんはどんな風にして、ここに店を構えるに至ったんだろうか。



常連らしき人が来ると会話が弾む。

いつも豆を買いにくるらしいお姉さん。
いつものカフェラテを頼むお兄さん。

交わされる会話を横のテーブルから眺める。店の番犬はいつもこんな視点なのかな。


店の前を歩く人、看板に目を向ける人、立ち止まってボードを見る人。人の生活が見えるって何か不思議だ。

追加注文をしたスコーンはやや固め。手作り感があって良い。添えられたソースはクランベリーあたりだろうか、酸味が程よくおいしい。



なんだかな。何がなんだかな、なのかもよくわからないけど、なんだかな。このままこんな日常を送っていたい。ゆるやかで安心できて、落ち着くような。


でもなぁ現実はなぁ。

みんなの就活が落ち着いたくらいにやっとそれらしいことをはじめた特殊パターンだったので、色んなプレッシャーが降りかかってくる。だけどそれを言葉に、声に出してしまうと、その不安が現実のものとなってしまいそうな気がしてなかなか口にできない。


春から社会人、ビジョンが見えない。
働くのは国民の義務、モラトリアムの終わり、漠然とした不安。あー!早く後ろ盾がほしい。目指している業界はこれから就活ピーク。あー!安らぎがほしい。裏切らないのはお酒と音楽。あー逃避したい!逃げたい逃げたい逃げたい!!


……というようなグルグルした思考などは一切外に出さず、優雅にコーヒーを飲んでいたつもりなのだけど、お兄さんは何か察したのか「きっといけますよ」と言ってくれた。



その言葉信じるっす。
ごちそうさまでした。



帰り道、道路沿いに置いてある商売繁盛のタヌキの表情がなんとなく柔らかく見えたから、ちょっと気分が軽くなったのかもしれない。


また行きたいな、と思えるお店が増えていく今日この頃。



追記:進路が決まってから、またこのお店に足を運んだ。するとわたしの表情を見てお兄さんはもう気づいたようだったけれど、「どうだったんですか?」と微笑みかけてくれた。やっぱりこのお店、好きだなぁ。