Coffee brake

ゆるりと気ままに呟きます。

相席屋デビューの話 ②

「らっしゃいませー!!」

「あ、予約の○○です~」


席は思いのほか狭い。隣のテーブルともぺらっとした仕切りで区切られている感じ。ドリンクはセルフサービスらしい。なるほど、いい商売だ。

無駄に余裕をかまして歩いていくわたしと、すでに変なテンションになっている友人。通されたテーブルでしばし待つ。すると男性3人組が入ってきた。


「どうもこんばんは初めまして!」

半分営業スマイルで挨拶すると、ひとりは笑顔で返してくれたが残りのふたりは「どもっす」程度のうつむきがちな会釈。おお、これは……と、すでに何かを察する。同じことを思ったのか友人と目があった。

とりあえず乾杯をし、軽く自己紹介。男性陣は30手前の高校の知り合い、笑顔で挨拶をした彼は相席屋2回目、ほかのふたりは初めてらしい。「じゃあ俺がお店の先輩なわけだ!」とのことだったので、以下彼を先輩と呼ぶことにする。以降は先輩を中心に出身地トークなど、を、するも……。


……先輩しか話してなくね?


後輩ふたりの沈黙を破るべく、わたしも会話を振ることにした。


「普段お休みはどんなことをされてるんですか?」

「えっとー、引きこもってる、かな」

「俺も」

「俺も割と寝てるな、」


普段寝ててもいいからせめて嘘をついてくれ、盛り上がる返しをしてくれ。せめて3人目、ていうか先輩よ。オチをつけてくれ。三段でいけば割とキレイにまとまるところだから!


「趣味とかはどうですか?映画とか音楽とか……」



(5~6秒の沈黙)



「うちテレビがなくてさぁ」(ポツリ)


「うといんだよねー流行ものに」(ポツリ)



ジーザス。

さっきから友人の口が半開きな気がする。やばい。学生時代の部活動の話も、写真部には入ってたけど、くらいのリアクションしか返ってこなかった。お仕事の話も終わってしまったしえっとえっと……。わたしの内心おろおろゲージが急上昇してきたあたりで、先輩が話を振ってきた。


「そういえばさ、ふたりの趣味ってなに?」


きたぁぁぁぁぁサブカラーな我らが恐れる質問!!


大好きなのはマイナーなバンドなゆえに、言ったところで盛り上がらないのはわかっている。だから邦ロック、と答えて逃げようとしたものの結局「聞くだけ聞くよ、なんてバンド?」とぐいぐい来られ、ぽろっと言ったところ、また微妙な空気になった。ほら見ろ!!泣きたい!!!


この息苦しさは狭い半個室のせいだけではない。帰りたい、帰れない。どうにか思考を他に向けたくてチーズフライを齧る。うわぁこのチーズめっちゃ伸びる、と無駄に全力でどんな配合のものなのかを予想しつつ、改めて男性陣を見たところ随分と顔が赤い。でもその赤みは「いやあ緊張しちゃうな//」のそれではなくアルコールによるものだろう、目がとろんとしている。


「みなさん、もうかなり飲んでらっしゃるんですか?」

「あー、もう三軒目だからねえ。」


一方わたしたちはハイパー素面である。その上ただでさえ酒に強いのでまず酔えない。もう悪い展開しか見えない。戦争モノのドラマで、「俺、生きて帰ったらさ……」と親友が夢を語りだすシーンに匹敵するくらい今後の悲しい展開が見える。
友人はさっきのマイナーバンドの話を引きずっているのか、語りが止まらなくなっている。助けてほしい目をしながらも今度はコアな超若手芸人の話をしている。ごめん、そっちに行かれるとわたしも無理。


ああもう助けてくれ、そう思ったあたりで「お店、そろそろ出ようか?」の声が先輩からかかった。

「そう~~……ですね、そろそろ!」

と、間を持たせていったものの内心は食い気味で返事をした。


「じゃあ、2軒目行こうか!」


に、けんめ……?



つづく。