Coffee brake

ゆるりと気ままに呟きます。

傍聴マニア15 ②

エレベーターが開き、階に到着。

法廷と裁判官室等が並ぶ様はとても無機質で、生きている感じがしない。空気は病院のように、波風も立たない。



法廷に入ると、裁判は既に始まっていた。「迷惑行為」。どうやら話を聞いていると、男は盗撮をしたらしい。

え、それってわいせつじゃないの?と一瞬思ったのだが、盗撮や下着の上から触るのは「迷惑防止条例」違反らしい。法律をかじっている友人が後から教えてくれた。詳しい人がいると便利だ。


「反省はした、とおっしゃっていますが、一年も経たずにまた逮捕されてしまっていますよね。」


再犯らしい。どうやら3回目。1度目は30万、2度目は50万の罰金。それだけでも結構な金額だが、プラスして示談金もあると考えると…。しかし、今回の案件の問題はそこからだった。


「前回は短時間で出ることができたので、また日々の仕事や家庭のストレスや、性的な欲求がたまってしまいまして……」

「短時間で済んだ、ということは自分のした行為を軽く見ている、ということですか?わたしの質問は【なぜ行為を繰り返してしまったのか】ということなのですが。」

「いえ、反省はしたのですが…」


被告はボソボソと同じことを語り、日本語は支離滅裂だ。しかし話を聞いていると「罰金程度なら」と思っている節がある。端から聞いていればすぐにわかることなのだが、もちろんそれを自分の口で認めてしまえば刑の重さに直結してしまうので、被告はどうにか言葉を濁そうとしている。

撮影できるスマホを持ってしまっていたから、ストレスがたまってまたやってしまった。一度してしまうと止まらなかった。今後はスマホの契約はせずに、物理的にできない状況をつくるーー。

心理的に更正しようとは思っていないのだろうか。


「今月は仕事の関係で行けてないのですが…」


SOMECと呼ばれる性障害の専門施設でカウンセリングや治療を行っていくらしい。示談金は母が立て替えた、絶対に動画流出はさせていない、悪いことをしてしまったとは思っている……。被告人のぼろぼろな弁論が一通り終わり、一息ついたのかと思うと検事がこんな発言をした。


「あなたは前回の盗撮時はミニスカートの女性を選んだようですが、今回はロングスカートでしたね。それはなぜですか?」


……は?スカート丈の話?


「あなたは前回、【ハラハラドキドキ感】を楽しむため、と言っていましたが」


すごい単語が出てきたぞ……?


「お尋ねしますが、ミニスカートとロングスカートではどう違うのですか?ロングスカートの方が撮影は難しいのですか?」



どんな質問だよ……と、思ったのだけど。たぶん【ロングスカートの方が撮影が難しい→ハラハラドキドキ→スリルを味わうことを目的とした行為、ゲーム感覚→悪質なものである】と検事さんは結びつけたかったのではないかと思う。


それにしても、だ。ロングスカートってどう撮るわけ?さっきから純粋な疑問が浮かんでいた。


わたしはその日膝丈くらいのスカートをはいていたのだけど、これだって段差などを利用して相当角度をつけないと厳しい。ロングなんてましてそうだろう、というか足下まで裾がきてるのにどうやって?

そう思っていたら、どうやら被告は【スカートを捲り上げて撮影した】らしいことがわかった。なんでそれでばれないと思ったの……?確かに布一枚がひらひらしてるだけみたいに見えるけど、突っ張ったりすれば簡単にわかるから、あれ。


結局、被告は終始しどろもどろ。判決はさらに2~3週間後になりそうだった。裁判は時間がかかるものらしい。



ぼそぼそとマイクが拾えるか拾えないか程度の声でしか喋ることはできず、保釈金は親や配偶者任せ。皆の視線を集めながら背を丸めて床を見つめる。見学で来ていた高校生の集団は、こんな大人たちを目の前にして何を思ったのだろう。

しかし、単にすべて「甘え」の言葉で解決できる問題というわけでも、ない。薬物や盗撮などは再犯が多い。何度も何度も、努力してもどうしても犯罪に手を出してしまうのであれば、それは依存症であり治療が必要だ。容易な解決が難しい場合もある。介護疲れなどの事情が入る裁判でも、見ているこちらも痛ましくなるそう。どうすれば良かったのか、と虚ろな目で問われたら、なんと答えるのが正解なのだろう。ただ、だからと言ってどちらも法を破ったりしてはいけなかったのだけど。


様々な案件を膨大に抱える裁判官は、純粋にすごい。良心の名のもとに、人のこれからを一言で左右してしまうような力を持つことのプレッシャーはさぞかし大きいのではないか。なんて考えるわたしは、絶対向いていない職業なんだろうなぁ。



以上、裁判傍聴レポートでした。

思うところは様々あるけど、一度くらいは足を運んでみてもいいのではないかなと思います。

傍聴してみて改めて、柵の向こう側の怖さがひしひしと伝わってきたかも。